「改正」労基法

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「改正」労基法  

 

2003.1.20 労働法制全面改悪へ
 厚生労働省に労働政策審議会が建議
1999.10.25 労働基準法「改正」… こんなにある問題点

 


労働法制全面改悪へ
 厚生労働省に労働政策審議会が建議


労働者の労働条件にかかわる制度のあり方を審議してきた厚生労働省の労働政策審議会は2002年12月26日、最終報告をまとめ、同省に建議しました。
裁量労働制の拡大や、解雇ルールの導入、有期雇用の期間延長など経営者にとって「雇いやすい」方向に全面改悪する内容となっています。これに基づき政府・厚生労働省は2003年の通常国会に法案を提出する予定です。


ここでは、建議内容のポイントを解説します。合わせて建議原文を掲載しますので、読み合わせて、内容を深くご理解していただき、これらが導入された場合、労働条件にどのような影響が出てくるのかをつかんでいただきたい。

また、労働基準法に係わる建議の他に、派遣法、職業安定法、雇用保険法に係わる建議も同時に行われており、最後に簡潔にご紹介します。

対象となる建議

今後の労働条件に係る制度のあり方について(報告)


【解説】


 報告の要点は、以下のとおり。法改正は基本的に6点。


(1)就業規則及び労働契約の締結に際し交付する書面の中に、「解雇の事由」を明記。
(2)有期労働契約について
  @有期労働契約の期間の上限について、原則を1年から3年に延長、専門的な知識等を有する労働者及び高齢者(60歳以上)は5年にする。
A「有期労働契約の締結及び更新・雇止めこ関する指針」の根拠規定を設ける。

(3)解雇ルールについて
  @使用者は、法令により解雇が制限されている場合を除き労働者を解雇できるが、「使用者が正当な理由がなく行った解雇は、権利の濫用として、無効とする」規定を設ける。
A解雇を予告された労働者は、解雇の予告日から退職日までの間においても、解雇の理由を記した文書の交付を請求できる。
B裁判所が解雇無効を判断したとき、当事者の申立てに基づき、一定の要件の下で、当該労働契約を終了させ労働者に一定の額の金銭の支払を命ずることができることとする。
(4)企画業務型裁量労働制について
  @労使委員会の決議(全員の合意→4/5の多数決に=協定代替決議も同様)、労働者代表委員の信任手続の廃止、労使委員会の設置届の廃止、健康福祉確保措置の実施状況報告の簡素化、決議の有効期間の1年限度の撤廃。
A企画業務型裁量労働制について、対象事業場を「事業運営上の重要な決定が行われる事業場」(=注:本社)に限定しないこととする。

(5)専門業務型裁量労働制について
  @健康福祉確保措置及び苦情処理措置の導入

(6)時間外労働の限度基準における「特別の事情」を臨時的なものに限るようにする。
   
上記、法改正の対象となる項目のポイントを見てみよう。

有期雇用契約の雇用期間延長は、一見、有期雇用で働く人にとって有利になったような気がするが、大きな落とし穴がある。現状は1年毎に契約更新し、これを繰り返すことで”継続雇用”という条件が現状として維持されている。判例でも更新を繰り返し、実質的に社員と同じ状態になった場合、簡単に雇用を打ち切れない。これが3年に延長されれば更新回数が減り判例の適用を逃れることができる。
 朝日新聞で女性のワーキングライフを考えるパート研究会代表の酒井さんは「雇う側の使い勝手ばかりが向上した感じ。正社員は一定の手続きを踏めばやめたい時やめられる。有期雇用者は退職の自由が保障されない。改定は雇用者が縛っておける期間が3年まで延びたにすぎない。」と言い切る。
 現状、上限が1年でも不況の影響で1ヶ月や2ヶ月でやめさせる会社が増えていて、3年に上限が延ばされても、延ばすかどうかは会社の意向しだいで、労働者の契約期間が延びるとは限らないようだ。
 そしてもう一点、注意しなければならないのは、正社員を3年の有期雇用に切り替える可能性が高いという点。この点では建議は「企業において期間の定めのない労働者について有期労働契約に変更することのないようにすることが望まれる」と非常に弱い調子で記載され、「法案に盛り込む」とは言っていない。

解雇のルール化は、「使用者が正当な理由なく解雇した場合、権利の濫用として、無効となる」とあり、労働者に有利にあるかのように受け取れますが、就業規則に「解雇の事由」を明記すれば解雇でき、またたとえ裁判所が「無効」と判断したば場合でも、「金銭による労働契約の終了」を認め、不当解雇であっても金さえ払えば労働者を解雇できると、使用者優位の内容です。

裁量労働制では、「企画業務型裁量労働制」の対象を拡大し、導入要件・手続きを大幅に緩和するとしています。
 現状の企画業務型裁量労働制は13項目にわたるチェック項目を設け、何でもかんでも裁量労働へという企業の意図に厳しい規制を設けている。これが大幅に緩和されるということは、本来裁量労働の対象とならない労働者も”労働時間管理をしなくていい”という一点で無理やり対象とさせられ、際限のない長時間労働を押し付けられる危険性があり、サービス残業が蔓延することが確実。このことは過労死増加の道でもあります。
 もともと企画業務型裁量労働制は次の4要件を満たす場合にその導入を認めている。
  (1)事業の運営上重要な決定が行われる事業場であること。
  (2)事業場に、労使委員会が設置されていること。
  (3)労使委員会がその全員の合意により、対象業務、対象労働者等8項目の決議をしていること。
  (4)労使委員会の設置及び前記(3)の決議を所轄労基署長に届け出ていること。
この要件を十分な理由・審議もなくはずそうとは、労働者のことを真剣に考えて審議しているとは到底思えないところです。(労働政策審議会労働条件分科会の議事録を見ていただきたい)
 
 裁量労働制を語るとき、避けて通れないのが、対象労働者へ与える「裁量権」の問題です。ところが、審議会では「労働時間の長短に比例しない正確の業務」と単に労働時間のみに限って議論しています。「使用者が労働者へ細かい指示をあたえず、労働者の高度な裁量性と判断力をもって、新たな価値を創造する者」が対象であるとすれば(NECも同様)裁量権として、人、金、時間がその業務遂行にあたって必要とされる量を保障されなければならないのではないだろうか。つまり、人事権、経費の決裁権を加える必要がある。
そういう意味では、現状の4要件に加えて、以下の要件を付け足さなければならない。
(5)対象者には、使用者が期待する業務の範囲において、人事権、経費決裁権、労働時間管理権を与えなければならない。

第18回労働政策審議会労働条件分科会議事録
第19回労働政策審議会労働条件分科会議事録



その他の建議

労働者派遣法

派遣期間の上限を1年から3年へ
・製造業への派遣を1年に制限した上で解禁
・最長3年となっている通訳や秘書など専門性の高い26業務の期間制限を撤廃
・派遣先が派遣期間を超えて派遣社員を就業させ続ける場合は、直接雇用契約の申し込みを義務付け
・派遣期間の終了後正社員として雇われる可能性のある紹介予定派遣は、派遣修行開始前の面接、履歴書の送付を可能に

ポイント
 ・派遣対象業種を製造業へ拡大、派遣期間を3年へ延長と大幅緩和で、いっそう正社員から派遣社員への置き換えがすすみ、不安定労働者が増加することに。
 ・「派遣期間を超えて就業させるときは、直接雇用契約の申し込みを義務付け」とあるが、現状の企業の大部分が正社員を増やさず、労働力確保を目的に派遣社員を受け入れているのだから、全く効力なし、逆に契約更新がなくなり、いっそう派遣社員の雇用が不安定になる恐れあり。むしろ正社員の比率UPを企業に義務づけ、希望する派遣社員を正社員にする法制定を望みたい。


職業安定法

・地方公共団体の無料職業紹介事業を可能に
・職業紹介事業者諸手続きの簡素化。
・求職者からの手数料徴収対象者の年収基準の引き下げと現在、科学技術者・経営管理者と絞ってる対象範囲の拡大。

ポイント
 ・問題は、手数料徴収範囲の拡大にある。これでは、再就職も金次第となり、お金のない人は職安で門前払いされることになる。


雇用保険法

現行1.4%の保険上率を05年度から1.6%に
・正社員とパートの2本立てだった給付日数基準の一本化
・離職前賃金比の給付率60〜80%を50〜80%に
・給付期間を残して正社員以外の仕事に再就職した失業者に給付する「就業促進手当」創設
・教育訓練給付の受講費用に対する助成率を8割から4割に

ポイント
 ・根本的に、保険料の増加、給付の削減を狙っている。負担は多く、給付は少なくで労働者にとって、全くいいことなし。
 

 


 
 
労働基準法「改正」… こんなにある問題点

労働基準法「改正」は、日本の労働者が戦後かちとってきた八時間労働制の原則を崩し、ただ働きと首切りを合法化するもので、問題点は数多くあります。これは「改正」ではなく改悪です。


裁量労働制の拡大
  長時間労働とサービス残業強いる


 現在の労基法は、裁量労働の対象を弁護士など11業務に限定しています。改悪案は、ホワイトカラー全体に広げようとしています。


 裁量労働とは、労働者が一日にどれだけ働いても、労資協定で決めた時間だけ働いたと「みなし」てしまう制度です。企業は、賃金を労働時間ではなく、仕事の「成果」で支払います。8時間労働制が崩され、労働者は長時間・過密労働とサービス残業が強いられます。


 NECでも昨年4月から主任職に「Vワーク制度」を導入しました。いつでも裁量労働に移行できるようにとウリ二つの制度を導入したもの。残業時間の20時間に相当する手当しか支払われません。対象者から、「20時間を超える残業代がカットされる」「仕事の成果の基準があいまい」などの声があがりました。


 昨年4月からのVワーク対象者で、適用除外を申請した人はごく僅かで、実質サービス残業となってしまっています。


 労基法改悪案の衆院での「修正」では、「対象労働者の同意」が必要なことや不同意を理由に不利益扱いしないことが盛り込まれました。また、対象労働者の範囲を「専門的な機関」で検討することが「確認」されたといいますが、NECのVワーク例のように、これが歯止めにならないことは明らかです。


男女共通の規制なし
  女性は働き続けられなくなる


 女性の時間外・休日、深夜労働を制限してきた労基法「女子保護」規定の撤廃にともない、99年4月から、女性労働者も男性と同様に長時間・過密労働に巻き込まれることになりました。労働時間の男女共通の法的規制は、ただちに実現すべき重大課題です。


 改悪案は、女性労働者や労働組合、法律家などの強い要求にもかかわらず男女共通の時間外労働の上限規制がもりこまれていません。「修正」でわずかに育児や介護を要する労働者にたいし「激変緩和措置」として、時間外労働の上限を年間150時間以内としていますが、罰則もなく実効性の乏しいものです。
 家事・育児の大半を担っている女性が、男性と同じような働き方を求められたら、健康破壊や家庭崩壊をきたすことは明らかです。実際、「深夜・時間外労働が多いほど異常出産が増える」(全労連女性部調査)など、深刻な健康被害が広がっています。女性は結局、退職を余儀なくされ、無権利・低賃金のパート労働者にならざるをえなくなるでしょう。


(NECの職場でも長時間残業で、体を壊したり、家庭生活と両立できず、退職を余儀なくされている女性が増えています)


 労働時間の男女共通の法的規制と罰則化の実現は、多くの労働者の共通の願いです。


変形労働制の緩和
  労働者の健康や生活リズムをくずす


 変形労働時間制は、一定の期間の範囲で一日8時間、週40時間をこえて働かせてもいいという制度です。「仕事に8時間を、休息に8時間を、自由に使える8時間を」という歴史的に確立されてきた8時間労働制を崩し、労働者とその家族の生活のリズムを狂わせるものです。


 一年単位の変形制では、新たに従来の一日9時間、週48時間という上限を緩和し、一日10時間、週52時間まで働かせることができます。


 現行の変形労働制が導入されている郵政の職場では、16時間も拘束される「新夜勤」が導入され、五年余りで50人が在職死亡しています。一日11時間以上の勤務が五日間も続く西鉄バスでは、年34億円の残業代を削減しました。


 変形制によって、企業は、忙しい時期には休みを減らして長時間労働者を働かせ、暇な時期には休ませることができ、労働者の健康や生活はおかまいなしです。


 労働者の「ゆとり」や「労働時間の短縮」どころか、もっぱら会社に都合のいい制度です。


短期雇用制の新設
  3年で首切り自由、不安定雇用を増大


 現行法は、一年以内の臨時的な雇用のほかは、期間の定めのない長期雇用を原則としています。改悪案は、この大原則を根本からくつがえし、三年を上限とする短期雇用制を新設しています。これは事実上、三年の「解雇予告」付き労働契約を意味します。


 国会審議では、この制度が新規採用だけでなく、常用雇用の社員でも有期雇用への切り替えが「理論的には可能」(伊藤庄平労働基準局長の答弁)であることが明らかになりました。正社員でも肩たたきによって、三年雇用の契約社員に転化される危険が強いのです。


 参考人質疑でも「企業にとって三年間の試用期間につながる」「終身雇用が減る」「若年定年制につながる」との危ぐが相次ぎました。


失業率は98年7月現在で4.1%、270万人で最悪の水準を維持しています。三年で首切り自由の仕組みを導入することは、労働者の不安定雇用の増大と失業悪化に拍車をかけることなります。


労基法改悪を持ち込ませない、職場での運動がカギ


労基法改悪の法案は成立してしまいましたが、労働基準法は最低の労働基準を定めたもので、労基法第一条では、「労働条件は、労働者が人たるに値する生活を営むための必要を充たすものでなければならない」と明記しています。


労基法の立法の精神を生かし、労働条件の改悪を許さない運動を労働組合にも働きかけ、盛り上げていきましょう。