雇用を守る日本と世界(4)

第一部欧州から日本を見る

2000年1月6日「しんぶん赤旗」より転載


人権意識、”座敷ろう”に驚き

 日本列島に失業者があふれた昨年、前例をみない首切りが相次ぎました。大企業の各社が人減らしを競い合い、優秀な技術者に雑用を強制したり、”座敷ろう”や”独房”という言葉まで生まれたほどでした。こうしたむちゃくちゃなリストラが世論のきびしい批判を浴びたのは記憶に新しいところです。日本の労働者いじめの実態を示す写真を持参し、ドイツの労組幹部らに感想を聞きました。

「ありえないこと」

 印刷や出版、テレビ、芸術関係、サッカー選手などの労働者でつくるメディア産業労組(十八万人)のアンドレア・コーヘン副委員長は、口をへの字に曲げ、”座敷ろう”の写真をにらみつけていいました。

 「ドイツでも労働者いじめはありますが、このようなひどい形はない。労働条件は何平方メートルに何人が働くか労資でこまかくとりきめています。この写真は明らかにドイツの法律に違反しており、経営者側としても介入するケースです。ただちに改善しないと大きな問題に発展します」

 コーヘン氏は労働裁判所で労働者代表としてボランティアの裁判官を務めています。長年会社に尽くしてきた管理職や中高年労働者がこうした仕打ちを受けていることについても、「組合が介入する対象になる」と話します。

 「われわれは労働組合として企業内いじめをどうやってなくすかというセミナーを開き、とりくんでいます。会社の功労者をいじめるこの人権(じゅうりんの)感覚はさっぱりわからない」

 経営者団体も驚きの表情です。ドイツ経営者団体連合会(BDA)法律顧問のディーター・フランク・ウインケ氏。BDAに勤務する以前、二十年の弁護士歴があったといいます。「これがアメリカ流なのか、日本流なのか。(こういう労働者いじめは)ドイツの企業より対応が早いのかもしれない」といいつつも、「労資が信頼関係で結ばれてこそ忠誠心も高い。ドイツでは通用しません」ときっぱり話します。

 職業安定所を統括するベルリン・ブランデンブルク地方労働局のクラウス・カルツナイザー局長は、写真を手にとり、ためいきまじりに首を横にふりました。「ドイツでもまれに個々のケースでいじめはありますが、労働者は人権を守られています。”座敷ろう”などはありえません」

 ”座敷ろう”についてロンドンのシティー(金融街)で働くある保険会社の管理職はいいます。

 「ドイツなどに比べると英国では容易に人を解雇できます。会社に損害を与えた人など即刻やめてもらうことはあります。ただ差別と人権だけは気をつけています。差別がいささかでもあると訴えられますから。人権は雇用関係以前の問題。退職強要の隔離などは論外ですね」

「封建制度の現れ」

 日本に二年間滞在した経験があり、日本が大好き、定年退職したばかりのB・ソーバーン氏(60)もいいます。「サラリーマンのカローシ問題でも感じましたが、日本には欧州人によく理解できない封建制が残っています。陰湿な退職強要は正規の手続きや法を尊重しない封建制度の現れ」と手厳しく批判します。

 英国では一時、日系企業での従業員差別が相次いで報道され問題になりました。日本人管理職が日本と同じ感覚で欧州の厳しい人権意識を軽視していることが指摘されました。

 十二月初め、ジェトロ・ロンドン主催の労務セミナーに招かれた英国人弁護士は「人権」の問題を特別に強調しました。欧州連合(EU)指令が差別をこと細かく禁じているだけでなく、とくに欧州人権規約が「奴隷的拘束をうけない権利」を保障していることを指摘。不適切な職務命令は、人権侵害として欧州人権裁判所に直接訴えをおこされることになると警告しました。

(つづく)


 職場での差別禁止

 欧州各国では、職場での性別と人種、未・既婚、障害の有無による差別禁止が厳格にきめられています。またEUにはパートタイム労働者指令や期限付き労働にかんする指令があり、正当な理由なく労働者を差別することを禁じています。


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