経営陣の失敗のつけを全面的に労働者に押しつけるリストラ施策は絶対許されない

2002年3月10日 NEC労働者懇談会

NECは1月31日、NEC労組に対して、「今回の危機的状況に対応するため」として緊急費用削減施策を提案しました。その内容は概略以下の通りです。

概要)

1.2002年から1年間の緊急費用削減施策
@ 時間外割増率:法定まで切り下げ
A 財形奨励金等への会社補助費の凍結
B 文体行事の一部凍結

2.特別転進支援施策の全社展開

対象:下期人材活用施策実施部門を除く(ただしパーソナル事業ラインは含む)全社の勤続10年以上かつ45歳以上

 @ 外部求人情報の提供:2002年4月15日〜5月31日
A 特別転進支援加算金(下期人材活用施策と同額)
・募集:2002年7月15日〜7月31日
B 転進支援サービス:外部コンサルタント会社の転進支援サービス
C 個人面談の実施:2002年5月7日〜7月31日
D キャリア相談室の設置

 

<NEC労働者懇談会の見解>
1,NECのリストラ施策は大企業としての社会的責任の放棄

@ NECをはじめ大企業がこぞってこのような実質賃金の切り下げや人減らしを強行して行けば、日本の不況が一層深刻化し、失業率もさらに増加、デフレの悪循環となり、日本経済は最悪の不況から「恐慌」状態となるおそれがあります。

A 目先の利益のためにNECが人減らしを行っても、大企業の多くが同じように人減らし、人件費削減をしているため、労働者・国民全体の購買力が低下し、NEC製品も売れなくなり、会社業績も悪化します。(一時的には回復するがさらに悪化する恐れあり)。

B 大企業の人減らしリストラは下請け、孫請けなどに過酷な人減らしが波及し、地域経済、自治体財政等にも深刻な悪影響を与えています。

柏崎市、山形市、出水市などNECの子会社がある地方自治体から、企業の社会的責任を放棄したリストラ策に対して、要請や抗議文が出されています。

C 1企業が儲かれば国の経済はどうなってもかまわないというのが、NECなど大企業の「生産の海外シフト」であり、「グローバル戦略」です。一方労働者はその国の中で生活しているのであり、会社の発展と同じように国の経済も当然大切です。そして戦後五十数年間、労働者・国民の必死の努力により今の賃金水準、生活水準を(不十分であるが)築いてきました。その点からも「国民経済」を考慮した経営が必要ではないでしょうか。そのためには、国内生産工場をつぶして海外シフトすることを規制すること、解雇を規制し雇用を守るような政治の仕組みなど、ルールづくりが必要です。(ヨーロッパでは労働者・労働組合などのたたかいにより、雇用を守るルールが確立し、そのように雇用を守ることや環境対策など行う企業が優良企業として社会的に認められる仕組みになっています)

 また、NECをはじめ電機各社の経営者は「中国の人件費は日本 の30分の1だから、中国に生産を移転するのは避けられない」といっていますが、例えば半導体製造(64MDRAM)費の中で人件費コストの占める割合は日本で10%、韓国で9%、マイクロンで7%など、人件費の製造コストに占める割合はあまり変わらず、また人件費の割合は比較的小さいものです。(「前衛」3月号藤田実氏「電機産業のリストラと再編の先には何があるか」より一部引用))このように電機大企業の経営者は日本の人件費を過大に描き、海外移転を正当しています。
    日本の労働者の賃金(人件費)は、欧米に比べてもむしろかなり低く、購買力平価ではアメリカの70%、ドイツの60%です。(日本労働機構「データブック国際労働比較2001」より)
    また、日本の経営者が「労働者の賃金は世界最高レベルである」との根拠にしている為替は円安が進んでおり、3月5日の円ドルレートは1ドル=132.22円で、1995年の平均対ドルレート96.26円と比較すると賃金は72.7%にダウンした事になります。(96年:105.79円、97年:121.22円、出展:JETRO)
    従って経営者が「国際競争力、グローバル化が必要」というのであれば、NECをはじめ電機各社は欧米並に雇用を守ることはもとより、賃金のアップ、労働条件の向上こそ優先すべきです.

 

2,経営陣は経営責任をとって、人事を刷新すべき

@パーソナル事業ラインの「構造改革」を行い、更に2001年度下期緊急人材活用施策を行い、労働者犠牲の大リストラを行ったにもかかわらず、さらに会社業績が悪化し、1500億円のリストラ費用を追加計上するなど、現経営陣の経営能力がないことが実証されました。その証拠に今回のリストラ策の発表(2001131日)によって株価が急落(十数日で約30%)しました。従来はリストラ施策を大々的に発表すると株価が一時的にせよ、上昇しましたが、今回は逆に暴落したことは、このような会社の施策に市場も失望し、市場からも見放されたものと考えられます。

A業績の悪化は、アメリカの「ITバブル」とその崩壊を見通せず、半導体やパソコンなどの需要予測の誤りによる過剰な設備投資などが発端ですが、その後も、ただ人減らしだけの無為、無策で業績を悪化させた責任はきわめて大きいものがあります。

B経営施策にしても「製造からソフト・サービスへシフト」など他企業とあいかわらずほとんど横並びであり、半導体と同様に過当競争となり、業績向上につながるのかきわめて疑わしいものです。また、これらは「GEモデル」と同じ事を行おうとするものであり、この「GEモデル(製造からサービスへの選択と集中)」はアメリカが好況期に成功しましたがこの不況下では通用しない時代遅れの施策です。(時代遅れのアメリカ経営の物まね、独創性も発想の転換もない無策)

(半導体の需要予測ミスによる過剰設備投資、過剰生産、そして価格の暴落、パソコンの需要予測を誤った機会損失、今度はそれに懲りて過剰生産し在庫の山、そしてその次は利益を優先し、過少生産し、機会損失、ハイエンドUNIXマシンの度重なる開発失敗など経営陣の失敗は枚挙にいとまがないのに経営責任をとらず、その失敗をもっはら労働者にしわ寄せしています)

C結局、旧態依然の人減らし、人件費削減が中心のリストラであり、これが管理職も含めて従業員のモラル低下、仕事のやる気、求心力の低下、技術力の低下をもたらし、さらに業績悪化に拍車がかかることに対して経営陣の認識があるのか疑わしいものです。(労働者をただ「人件費」として扱い、労働者の痛み、国民の苦境が判らないものは経営者として失格。経営者ではなく、経理屋、日経連の奥田会長のいう「経営屋」ではないでしょうか)

  D従って、まず会社経営陣の人事を刷新し、従来のリストラ策を抜  本的に改め、労  働者優先、雇用、生活を守る施策への転換を図るべ  きです。それが、全社が一体感を持ち、元気も出、安心して働ける  環境により、結果的に生産性向上、業績向上に結びつくのではない  でしょうか。(他社と横並びの「首切り競争」というべきリストラ  施策をやってももう効果はありません)

 

3,労働組合執行部の責任も重大
 

@NEC労組執行部は、会社施策に無条件で従い、むしろ会社施策を組合員に徹底する役目を果たしてきたといえます。そのような無批判・無チェックの労組執行部の姿勢が、あの防衛庁汚職の「水増し請求事件」を防げなかったように、今回も業績悪化を事前に労働組合としてチェックできなかった点では重大な責任があります。

 2月4日の第80回の中央労使協議会では、NEC労組執行部が「改革のスピードが遅い」として会社にリストラ施策をあおり、「目に見えるリソースシフトがない」とEDに対して人員の移転の促進を会社に迫っています。これは会社の理不尽で労働者にだけ犠牲を押しつける施策に協力することを宣言したものであり、労働者の切実な「雇用を守って!」「今の仕事を続けたい」という要求に背を向け、労働組合としての責務を投げ捨てる組合員への重大な背信行為そのものです。

Aこのように労組執行部には、会社の人減らし・労働条件、実質賃金切り下げをすべて追認してきたことにより、組合員の雇用も労働条件、福利厚生、生活も守れなかった重大な責任があります。

B労働組合は労働者の雇用、生活と権利を守る本来の労働組合の役割を果たす立場に立ち返り、首切りを許さず、雇用をまもる協定づくりなど、いまこそ大奮闘しなければなりません。

 

4,リストラ施策内容の問題点
 

@パーソナルJL「構造改革」2001年下期緊急人材活用施策で明らかになった問題点

 業績の急降下を口実にしたNECの下期人材活用施策とその半年前に始まったパーソナル事業ラインのリストラにより、すでにNECグループの5%にあたる7000人が泣く泣く会社を追われました。

 その手口は、主に以下の2つです。

(1)  地方NECの再編、売却まどでの「拠点間の異動」による「労働者のふるい落とし」

(2)  下期人材活用施策の「対象職場の45歳以上の全員面接」などによる執拗な退職勧奨・強要

前者は、NEC新潟、山形、NECデータ機器などですでに行われ(この3社500人以上が退職)、そして今またEMS会社に売却予定のNEC宮城、鹿児島、茨城などで大規模に行われています。

後者は、2月発行のELIC NECビラにも掲載しているように、「貴方には仕事はない。代わりはいくらでもいる。NECにいたいのだったら自分で仕事をさがすか、ゴミ拾いしかないよ」など、労働者のプライドを傷つけ(これは名誉毀損に当たる)、辞めさせるという悪質な手口です。何度も面接が行われたり、毎日のようにメールで「仕事をさがしたか」と嫌がらせをしたり、府中では障害者に対しても退職勧奨が行われており、企業の社会的責任も踏みにじる暴挙が各地で行われ、働き口も見つからないまま辞めさせられている実態です。特にエキスパート以上の管理職が人減らしのターゲットになっており、その多くが退職に追い込まれています。この個人面談などによる退職の勧奨・強要は、明らかに法律違反であり、損害賠償の支払いなどを生ずる犯罪行為です。(1980年7月10日 最高裁第1小法廷判決・下関商業高校事件およびNKKの退職勧奨・強要事件)

 また、派遣労働者、パートは真っ先に人減らしの対象になり、各地で解雇されています。

 対象職場では、モラルの低下、労働意欲の減退の中、人減らしにより労働強化になっています。その結果、設計品質の低下、フィールド障害の増加など発生しています。H2Aロケットの設計図と製造図の違いにより切り離し失敗した事故もこのような状況で発生したミスと考えられるのではないでしょうか。

その中で、3月末までにNECグループで、あと7000人(下請け協力会社は含まず)が辞めさせられたり、NECグループ外に放り出されようとしています。

 従って、今年4月からの特別転進支援施策の全社展開も下期緊急人材活用施策とほぼ同じような問題が考えられます。

 

A緊急費用削減施策の問題点

時間外割増率の法定までの引き下げ:法定は「最低条件」であり、大企業は率先して引き上げなければならないのに、引き下げることは社会的責任を放棄するものです。

3つの費用削減施策によってわずか16億円程度の費用削減であり、こんなこそくな施策で業績が回復するとは考えられません。むしろこのように費用の圧縮を全社員に示すことによって危機感をあおるのが目的ではないでしょうか。

一方、会社は「利益剰余金もあり、配当を行う余地はある」といって株主には「3円配当を継続する」としています。労働者には「会社存亡の危機」と危機意識をあおりながら、その反面、株主には配当を継続する、この経営陣の株主優先、労働者犠牲のモラルハザードぶりは最近特にひどくなっています。

 このような職場の労働者をあまりに軽視する経営陣の姿勢が会社をますますだめにするのではないでしょうか。

 

 

5,労働組合は労働者の雇用と生活と労働条件を守る先頭に立つよう訴えます
 

 この局面において労働組合の役割は決定的に重要です。いうまでもなく労働組合はその成り立ちから労働者の生活と権利を守るために自主的に結成した組織です。19世紀の労働組合発足の当時は、資本家は警察権力を使って血の弾圧を繰り返しましたが、その中で労働者は鍛えられ、次第に力を蓄え諸権利を獲得してきました。戦後、労働三権を勝ち取り、労働者の闘いは高揚し、賃上げや様々な労働条件の獲得がすすみました。このような労働者のたたかいが戦後の日本の平和や国民・労働者の生活向上につながってきたのです。これまで何度もの不況が襲いかかりましたが、雇用を守り、生活をまもる闘いがあったからこそ、日本の失業率は世界でも低水準で推移してきました。

 今、戦後最長の不況とはいえ、労働組合が労働者の要求を大切にし、しっかり団結してたたかえば電機の経営者の人減らし攻撃を跳ね返し、雇用を守ることは十分可能です。

 電機各社はこれまで膨大な資産や内部留保をため込み、1期や2期の赤字などではびくともしません。

 今こそ労働組合が労働者の一番切実な雇用をまもり、生活をまもる立場に立ち、労働者といっしょに断固たたかうことを呼びかけます。またそのような健全な労働組合の存在とたたかいこそがNECを再生させる道でもあります。

 

6,NEC関係の労働者のみなさんにいっしょにたたかうことをよびかけます
 

 労働組合とともに職場のみなさんが勇気を持って、雇用や働く権利、労働条件をまもるために声をあげることが今最も大切なことではないでしょうか。職場で声を上げることはとても勇気のいることです。しかし、それぞれの部署でその人なりのやり方で、たとえ小さな行動でも周りの人たちに対する大きな励ましになります。
 今回のリストラに対し、多くの人たちが不安と戸惑いを感じています。
 労働者は孤立していると大変弱い存在ですが、みんなの力が一つになったときは大きな力を発揮します。人減らしリストラは労働者ひとりひとりがばらばらにされているところに襲いかかります。一人で悩まず先ず家族や友達に相談することからはじめて、職場全体で交流出来るようになれば、そしてそれを労働組合に総意として伝えることができれば雇用や生活を守ることができるでしょう。職場を守るため、職場の労働者を守るため、そしてあなた自身をまもるため、この理不尽な人減らしリストラとのたたかいにそれぞれの立場やり方で立ち上がることを呼びかけます。

 

                             以  上

 

 
 
前ページへ