労働基準法「改正」は、日本の労働者が戦後かちとってきた八時間労働制の原則を崩し、ただ働きと首切りを合法化するもので、問題点は数多くあります。これは「改正」ではなく改悪です。
裁量労働制の拡大
長時間労働とサービス残業強いる
現在の労基法は、裁量労働の対象を弁護士など11業務に限定しています。改悪案は、ホワイトカラー全体に広げようとしています。
裁量労働とは、労働者が一日にどれだけ働いても、労資協定で決めた時間だけ働いたと「みなし」てしまう制度です。企業は、賃金を労働時間ではなく、仕事の「成果」で支払います。8時間労働制が崩され、労働者は長時間・過密労働とサービス残業が強いられます。
NECでも昨年4月から主任職に「Vワーク制度」を導入しました。いつでも裁量労働に移行できるようにとウリ二つの制度を導入したもの。残業時間の20時間に相当する手当しか支払われません。対象者から、「20時間を超える残業代がカットされる」「仕事の成果の基準があいまい」などの声があがりました。
昨年4月からのVワーク対象者で、適用除外を申請した人はごく僅かで、実質サービス残業となってしまっています。
労基法改悪案の衆院での「修正」では、「対象労働者の同意」が必要なことや不同意を理由に不利益扱いしないことが盛り込まれました。また、対象労働者の範囲を「専門的な機関」で検討することが「確認」されたといいますが、NECのVワーク例のように、これが歯止めにならないことは明らかです。
男女共通の規制なし
女性は働き続けられなくなる
女性の時間外・休日、深夜労働を制限してきた労基法「女子保護」規定の撤廃にともない、99年4月から、女性労働者も男性と同様に長時間・過密労働に巻き込まれることになりました。労働時間の男女共通の法的規制は、ただちに実現すべき重大課題です。
改悪案は、女性労働者や労働組合、法律家などの強い要求にもかかわらず男女共通の時間外労働の上限規制がもりこまれていません。「修正」でわずかに育児や介護を要する労働者にたいし「激変緩和措置」として、時間外労働の上限を年間150時間以内としていますが、罰則もなく実効性の乏しいものです。
家事・育児の大半を担っている女性が、男性と同じような働き方を求められたら、健康破壊や家庭崩壊をきたすことは明らかです。実際、「深夜・時間外労働が多いほど異常出産が増える」(全労連女性部調査)など、深刻な健康被害が広がっています。女性は結局、退職を余儀なくされ、無権利・低賃金のパート労働者にならざるをえなくなるでしょう。
(NECの職場でも長時間残業で、体を壊したり、家庭生活と両立できず、退職を余儀なくされている女性が増えています)
労働時間の男女共通の法的規制と罰則化の実現は、多くの労働者の共通の願いです。
変形労働制の緩和
労働者の健康や生活リズムをくずす
変形労働時間制は、一定の期間の範囲で一日8時間、週40時間をこえて働かせてもいいという制度です。「仕事に8時間を、休息に8時間を、自由に使える8時間を」という歴史的に確立されてきた8時間労働制を崩し、労働者とその家族の生活のリズムを狂わせるものです。
一年単位の変形制では、新たに従来の一日9時間、週48時間という上限を緩和し、一日10時間、週52時間まで働かせることができます。
現行の変形労働制が導入されている郵政の職場では、16時間も拘束される「新夜勤」が導入され、五年余りで50人が在職死亡しています。一日11時間以上の勤務が五日間も続く西鉄バスでは、年34億円の残業代を削減しました。
変形制によって、企業は、忙しい時期には休みを減らして長時間労働者を働かせ、暇な時期には休ませることができ、労働者の健康や生活はおかまいなしです。
労働者の「ゆとり」や「労働時間の短縮」どころか、もっぱら会社に都合のいい制度です。
短期雇用制の新設
3年で首切り自由、不安定雇用を増大
現行法は、一年以内の臨時的な雇用のほかは、期間の定めのない長期雇用を原則としています。改悪案は、この大原則を根本からくつがえし、三年を上限とする短期雇用制を新設しています。これは事実上、三年の「解雇予告」付き労働契約を意味します。
国会審議では、この制度が新規採用だけでなく、常用雇用の社員でも有期雇用への切り替えが「理論的には可能」(伊藤庄平労働基準局長の答弁)であることが明らかになりました。正社員でも肩たたきによって、三年雇用の契約社員に転化される危険が強いのです。
参考人質疑でも「企業にとって三年間の試用期間につながる」「終身雇用が減る」「若年定年制につながる」との危ぐが相次ぎました。
失業率は98年7月現在で4.1%、270万人で最悪の水準を維持しています。三年で首切り自由の仕組みを導入することは、労働者の不安定雇用の増大と失業悪化に拍車をかけることなります。
労基法改悪を持ち込ませない、職場での運動がカギ
労基法改悪の法案は成立してしまいましたが、労働基準法は最低の労働基準を定めたもので、労基法第一条では、「労働条件は、労働者が人たるに値する生活を営むための必要を充たすものでなければならない」と明記しています。
労基法の立法の精神を生かし、労働条件の改悪を許さない運動を労働組合にも働きかけ、盛り上げていきましょう。
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